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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和42年(ワ)115号 判決 1970年1月12日

原告

岸本義一

岸本とり

代理人

江口十四夫

被告

伊丹市

右代表者

伏見正慶

代理人

松井城

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

原告ら代理人は、「被告は、原告両名に対し金五四六、三〇〇円原告儀一に対し金五四八、〇〇〇円、原告とりに対し金三五五、〇〇〇円と右各金員に対する昭和三九年九月二日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は両名は夫婦であつて、昭和三〇年一二月一日以降伊丹市北河原字当田一〇〇番地伊丹寮に居住していたが、同建物は昭和三九年九月一日午前一〇時二〇分階下北側の訴外柏木周次の部屋あたりから出火し、木造瓦葺二階建延建坪合計約一、六五〇平方米(五一室)のうち一四室を焼き、同日一一時過ぎ鎮火した。

右一四室中空室は四室で、一〇室の被災者は一一世帯四三人であり、原告両名は二階の四〇号室に住んでいたが、その時原告義一は勤務先へ出勤しており、同とりは塩尾寺へ参詣するため外出中であつて、両室全焼のため、家具、什器備品、衣類、書籍等一切が焼失したのである。

二、右建物は、伊丹市北河原字当田所在大阪営養株式会社によつて昭和一六年頃建てられ、同社の独身寮として使われていたものであるが、終戦後間もなく、兵庫県がこれを買取り、外地からの引揚者を収容していたところ、伊丹市が昭和三〇年四月頃長尾村を分村合併するに際し、兵庫県から無償譲渡を受けたものであつて、その当時すでに老朽化甚だしく、電気配線も、戦時中の物資不足の際に設けられたものであるが、原告両名がここに入居して以来右の配線の工合は危険視されていた。

三、原告義一は、昭和三七年四月頃から寮の会計委員をしていたが、その当時寮の電源盤のヒューズがしばしばとび、その都度居住者のうちの誰かが新しいヒューズを入れていた。正規のヒューズを入れれば漏電の危険は少ないのであるが、配線に細い電線を使つているところへ、その電線に合致した正規のヒューズを通したのでは、その細い電線が許す以上に各居住者に於て電気を費消するためすぐまたヒューズが飛ぶので、往々にして規格外の太いものを用いることがあり、原告義一は、いつもこれを注意し、右を発見するや、他の寮委員と相談して、その都度関西配電株式会社伊丹支店と掛合い、安全な規格品と取替えてもらつていたのである。伊丹市消防局からも右伊丹寮は電気設備上危険な建物であるということを聞いていたので、常に電気事故に気を配つていた。

その後右の点について専門家によつて点検、修理されたことはなく、右電気施設の管理について、被告は何等の策をも講じなかつた。

そのために、右日時右柏木の部屋の天井とその真上の部屋の床との間の電気の配線箇所からついに漏電して出火し、これによつて右火災になつた次第であつて、これは被告の営造物の管理に瑕疵があつたためであるから、被告は原告両名に対して次の損害を賠償しなければならない。

四、原告両名に対する損害額

原告両名はそれぞれ左記のものを焼かれたので、その当時の価格の賠償を請求する。

(一)原告両名共有のもの

テレビ  一台 六〇、〇〇〇円

ラヂオ  一台 一二、〇〇〇円

扇風機  一台 九、三〇〇円

タンス  二本 二、〇〇〇〇円

水屋  二本 一二、〇〇〇円

テーブル 一台 三、〇〇〇円

寝具類 一五点 六〇、〇〇〇円

仆器類 三七〇、〇〇〇円

合計 五四六、三〇〇円

(二)原告義一所有のもの

現金 四〇、〇〇〇円

書籍類 二七〇、〇〇〇円

本箱  一箇 八、〇〇〇円

着物洋服類 一三〇、〇〇〇円

合計 四四八、〇〇〇円

(三)原告とり所有のもの

蛇の目ミシン 一台 三二、〇〇〇円

鏡台  一台 一三、〇〇〇円

着物洋服類 二一〇、〇〇〇円

合計 二五五、〇〇〇円

右のほか慰謝料として各原告に対してそれぞれ金一〇万円の支払いを請求し、併せてこれらに対する損害発生の翌日以降完済に至るまでの間民所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因第一項中、原告が外出していたこと、および家財道具一切が全焼したことを除いて、他の事実は認める。同第二項中、本件建物を兵庫県から譲受けたことは認めるが、その他の事実は争う。同第三項は否認する。同第四項は争う。

二、賃借人であつた原告の類焼。

本件建物(伊丹寮)は伊丹市の所有であるが、これを、原告その他の人々に各室を賃貸していたものである。原告義一に賃貸していた一室は、賃料一ケ月金七五〇円であつた。同建物は昭和三九年九月一日午前一〇時二〇分頃に、賃借人の一人である訴外柏木周次の一室からの出火により同建物の一部を焼失した。原告等の賃借室は、この出火によつて類焼し災厄を受けたものである。

三、国家賠償法上の責任はない。

被告は公共団体であるが、被告と原告等との本件建物使用の法律関係は、前述の通り、伊丹寮の一室の賃貸借、即ち被告が賃貸人であり、原告義一が賃借人であるという純粋な私法上の契約関係である。

国家賠償法は、国又は公共団体が、公の目的に供用する営造物の瑕疵に対する責任の規定であつて、公共団体の所有する営造営と雖も、私法契約上の使用関係(公の目的に供されていない関係)にあるものには同法が適用されるべきではない。

同法第二条第一項の条文は「道路、河川その他の公の営造物」と明文されている。文理上「公の営造物」とは公(公共団体)の所有物であるという意ではない。(例えば、市が個人所有の建物を賃借している場合でも公の営造物として取扱われることがある。)。故に、同条の「公の」とは、その使用目的即ち営造物自体が直接に公の目的に供用される場合を指すものというべきである。これに反し、営造物が間接には公の行政目的に役立つが、その経済価値に基づいて私人との契約使用の関係にある場合には「公の」ものではない。これは通説である。

本件においては、前述の通り、建物の使用は伊丹市と原告義一との賃貸借契約に基づくものであるから、公の目的に供用されるものではなく、同条の適用を受ける営造物ではない。

四、民法による訴求としても、被告には責任がない。

本訴が国家賠償法による請求であるとすれば、前述のとおり失当である。又本訴が民法七一七条によるものとすれば、本件建物の占有者は、原告や訴外柏木であつて被告ではない。従つて被告が第一次責任者として責任を負担する筋合はない。

なお、国家賠償法上の被告の無責、民法上の占有者又は所有者としての無責については、次項以下の事実関係により明瞭な如く、原告等の本訴は明らかに失当である。

五、出火原因は漏電ではない。

請求の原因第三項による原告等の主張を要約すれば、出火原因は「訴外柏木の室の天井裏の配線箇所からの漏電による」ものであつて、この漏電を惹起したことは、被告の営造物管理に瑕疵があつたため、というもののようである。然し、原告等のこの出火原因の主張は全く事実に反する。

1  関係当局の出火原因の調査結果。

本件火災後に、伊丹市消防署、伊丹警察署、兵庫県警察本部鑑識課は出火原因について綿密周到に調査している。その調査結果によれば、「電気的には漏電又はショート痕等は認め」られず、「屋内配線からの出火ではないと認定」されている。

従つて、本件火災は配線の瑕疵に原因するものでないこと明白であつて、被告に何等の責任はない。

尤も、当局の詳細な調査にも拘らず、出火原因は「漏電、放火以外の何等かの失火による火災と推察」されるに留つている。

2  失火による類焼である。

火災は火元柏木方の何等かの失策に原因するものであつて、これによつて原告等が類焼したものである。「失火の責任に関する法律」によれば、失火者に重大なる過失があつた場合にのみ民法七〇九条が適用される。仮りに本件火災が漏電による失火、これによる原告等の類焼であるとしても素より被告には配線についての重大な過失はない。

被告は本件建物に管理人を置いて、常々その管理及び防火に万全を配慮されており、賃借人一般にも粗略な使用のないよう注意方を徹底させていた。又、その修理、補強についても、自治団体として万全の措置を実施していた。

従つて、その管理上には何等欠けるところはなく、いわんや重過失のあろう道理はいささかもない。

六、原告の火災保険金の受領。

原告は日本動産火災海上保険株式会社と動産火災保険契約を締結していて、本件火災による損害一切を右保険会社より補償されている。従つて、原告等には全く損害がない。

<証拠>省略

理由

原告ら主張にかかる伊丹寮が、昭和三九年九月一日午前一〇時二〇分ごろ、階下北側の訴外柏木周次の室あたりから出火し、木造瓦葺二階建の建物延約一、六五〇平方メートル(五一室)のうち、一四室を延焼し、同日午前一一時過ぎ鎮火したこと(以下本件火災という)。右建物の二階四〇号室に昭和三〇年一二月一日以来住んでいた原告ら夫婦も本件火災により頻焼したこと。右伊丹寮はもと兵庫県の所有であつたところ、被告伊丹市が譲受けて所有していること。以上の各事実は当事者間に争いがない。

原告らは、右伊丹寮が被告伊丹市の「公の営造物」であると主張し、被告の管理上の瑕疵に起因し本件火災が発生したとし、国家賠償法二条に基づいて、被告に対し損害の賠償を請求している。

ところで、国家賠償法二条にいう「公の営造物」とは、国又は地方公共団体のごとき行政主体によつて、直接公の目的に供用される有体物又は物的設備をいうのであり、ここで「直接公の目的に供用されるもの」とは、行政法学上いわゆる「公物」にあたり、行政主体において、直接公共の用に供し又は供するものと決定されたいわゆる公共用物はいうまでもなく、そのほか行政主体の行う事務、事業、企業又はこれらに従事する職員の住居の用に供する物すなわち公用物を指称するものであるが、その資本的価値又は経済的価値を通じて間接に行政目的に役立つところのいわゆる「私物」は含まれないと解すべきである(従つて、自有公物についていえば、国有財産法三条、地方自治法二三八条に規定する行政財産が公物の範囲と一致し、同法上の普通財産は自有私物である。)。

本件についてこれを見るに、<証拠>によれば、伊丹寮は、引揚者の住宅援護の目的をもつて設置された伊丹市の施設であつて、伊丹市内に住所又は勤務場所を有する引揚者で、特に住宅に困窮する者を収容することを目的とし、入居にあたつては、引揚者であることの証明書を添付して使用申込をなし、伊丹市長は審査の結果使用を許可し、入居者は所定の使用料(一畳につき五〇円)を納入する義務を負い、使用料の延滞その他の理由により使用許可を取消される場合のあることが認められる。

<証拠>によれば、原告らは、青島からの引揚者で住宅困窮を理由に昭和三〇年八月二四日伊丹寮の使用方を申込み、同年一一月二六日伊丹市長の使用許可をえて入居したことが認められる。

以上の認定事実によれば、伊丹寮は、地方公共団体たる伊丹市が、同地域に居住し又は勤務する引揚者等を対象として住宅援護という社会福祉目的のため設置したもので、使用許可という行政行為によつて入居資格を与え、入居者に対し使用料の納入義務を負担させるという関係にあるから、伊丹寮は行政主体の事業に供用する公物(公用物)であつて、国家賠償法二条にいう「公の営造物」であると解するのが相当であり、その使用関係も又公法上の関係にあるものというべく、従つて、本件伊丹寮の使用関係をもつて、私法上の賃貸借関係であるとし、その公物性を否定する被告の主張は採用できない(もつとも、国家賠償法二条は、民法七一七条と同様な立法趣旨に基づくものであるから、若干の要件効果に相違が認められるにしても、対象物件の公物性の存否によつて、両法条が択一的に適用される関係にある。したがつて、裁判所は両法条に関する要件事実の主張があるかぎり、当事者の法的主張に拘束されず、公物性の存否についての判断に基づいてどちらの法条を適用することも可能であるから、本件伊丹寮の管理責任はいずれにせよ問題となる。)。

そこで、本件営造物の管理上の瑕疵の存否を判断すべきことになるが、その前提として、被告は、本件事故が失火によつて発生したことを理由として、失火の責任に関する法律(以下失火責任法という。)が適用されるから、被告において重大なる過失のない本件火災にあつては、原告の賠償請求権は発生しないと主張するので、この点について考察する。

ところで、失火責任法が失火者の責任を軽減している立法理由は、火災が失火者自身の財産を焼失するものであるから、各自注意義務を怠らないのが通常であつて失火者に宥恕すべき事情のある場合が少なくないこと、一度出火すると我が国の木造家屋の構造と防火、消防能力からみて、延焼の危険が非常に大きく、損害が異常に拡大するためこれを失火者に賠償させるのは酷であること、およびこのような事情のもとで古来失火者に対する損害賠償責任を負わせない慣習があつたことなどの理由から、旧刑法附則五九条が失火者の損害賠償責任を除外していたのを、失火責任法によつて復活させたものであるといわれている。

一方、国家賠償法二条における営造物の瑕疵責任の立法趣旨は、民法七一七条における工作物責任と同じく、危険物を所有し又は、支配してこれによつて利益をえている者に対し、危険防止措置を講すべきことを要求し、もし危険物の設置ないし保存上の瑕疵によつて損害が発生した場合には、過失の有無を問題とすることなく、客観的にその物が備えるべき安全性を欠いていること。すなわち瑕疵が存在することによつて賠償責任を負わせるといういわゆる危険責任および報償責任の理念に立脚しているのであつて、従来公行政作用に属する営造物管理上の責任の存否が争われたため、国家賠償法をもつてこれを明確化したものであるといわれている。

従来、民法七一七条における工作物の瑕疵に起因する火災について、大審院は、(1)当初失火責任法のみを適用して責任を軽減していたが(大判明治四〇年三月二五日民録一三輯三二八頁)、(2)その後工作物の設置又は保存に重大な過失があつた場合を除いて民法七一七条の責任を否定するに至つた(大判昭和七年四月一日民集一一巻六〇九頁)。しかし最近の下級審の判決中には、(3)失火責任法の適用を全く否定する見解や(東京高判昭和三一年二月二八日高民集第九巻三号一三〇頁)、(4)延焼部分についてだけ失火責任法を適用する立場も現われている(東京地判昭和三八年六月一八日判例時報四五一号四五頁)。

本問題は、失火責任軽減の立法趣旨と工作物におけ危険ないし報償責任の理念とのどちらを重視すべきかという点にある。失火責任軽減の沿革的な理由および不法行為責任全般の公平取扱の観点からみれば、失火責任法を民法七〇九条にのみ適用すべきであるとし、失火責任法の適用を全く否定する文理解釈は妥当でないから、民法七一七条などにも同法を類推して適用するのが相当である。そして、これを類推適用するに当つては、民法七一七条の責任と調和する解釈が必要であつて、工作物の設置ないし保存上に重大なる過失があつたときにのみ工作物占有者ないし所有者に責任を負わせるべきものと解する前記の判例理論に従うのが相当である(もつとも、設置、保存上の瑕疵とは別に重過失があれば失火責任を負うのは当然である。)。なお前記(1)の見解は、民法七一七条の趣旨を無視する点で妥当ではないとおもわれるし、又(4)の立場では、延焼損害だけに失火責任法を適用する根拠が明らかではないと思われる。

国家や地方公共団体等の賠償資力は、個人のそれとは異なり、国家などに対しては失火責任法を適用すべきではないという考え方も成立ちうるであろう。けれども、国家等といえども財政上の限界があり、国家賠償法四条、五条によれば、失火責任法の適用を前提としているものと解されるので、一応不法行為上の責任については、失火責任法を適用すべく、公の営造物の設置又は管理上重大なる過失のあつた場合にのみ、よつて生じた火災損害につき、国家又は地方公共団体の営造物責任が生ずるものと解するのが相当である。

従つて、被告のこの点の主張は理由がある。

そこで、被告に伊丹寮の管理上重大なる過失があつたかどうかを検討する。原告らは、「本件火災は被告が伊丹寮における屋内配線の老朽化を放置していたため、漏電を起し柏木方の天井裏から出火したものである。」と主張している。果して原告主張のごとくであれば、被告に伊丹寮の管理上重大なる過失があつたものというべきであるから、以下右主張について判断を加える。

<証拠>によれば、次の事実が認められ、これに反する立証はみあたらない。(1)本件火災は、警察および消防職員の実況見分および参考人からの事情聴取などの捜査の結果、訴外柏木方の奥六畳の間の北側付近から発火したもので、失火の疑いが濃厚であるが、確証が発見されないため、その原因不明のまま捜査が打切られ、現在に至つていること。(2)本件火災についての兵庫県警察本部刑事部科学検査所技術吏員による現場鑑識結果報告等によれば、(イ)現場配線および電気器具について火災原因になるとおもわる電気的な異常なこん跡は見当らなかつたこと。(ロ)伊丹寮の配電盤は、玄関入口の上にあり、南北および階上、階下の四群に分けて一五アンペア刃型開閉器が取付けられ、このうち焼失した北寮の分岐開閉器は、ヒューズがほとんど溶断しているが、使用されているヒューズは一五アンペア「つめ付ヒューズ甲又は乙」であつて、過大なヒューズや針金などは見あたらなかつたこと。(ハ)伊丹寮の屋内配線は、大部分「がいし引工事」であつて、便所、洗面所、外灯および下などの一部は「パイプ工事」であり、室内の配線は天井裏が「がいし引工事」であるが、その後「VAケーブル」による露出工事に改修されたところが多いこと。(ニ)柏木方の配線は、北寮階下西側回路から分岐し、入口の廊下側にある分電盤を通じて室内に給電され、右分電盤には積算電力計および一五アンペアの「カットアウトスイッチ」が設けられており、右スイッチには一五アンペアの「つめ付ヒューズ乙」が取付けられているが、右ヒューズは溶断していない。室内配線は「露出VA配線」であること。(ホ)伊丹寮は、木造かわら葺の建物であつて、防火壁の部分を除いて漏電するような危険な個所は認められず、防火壁は柏木方の南側壁にあつて、モルタル下地に「メタルラス」が使用されており、トタン板も使用されているので、漏電回路を形成することは一応考えられるが、水道管やガス管などの良接地物件がなく、防火壁に漏電したとしても発火するに足りる「漏えい電流」が流れるかどうかは疑問であること。(ヘ)さらに、防火壁のモルタルは焼けておらず、ほとんど変色は認められないし、又防火壁の上から塗られている真壁中の貫や柱も防火壁側は全く未炭化であつて、漏電によつて壁の中から発火した形跡は認められないこと、柏木方全般の燃焼倒壊状況から判断しても、発火部は「あき室に接した北側であつて、南側の防火壁から発火したものとは考え難いこと、防火壁を貫通する部分の配線は、「がいし引配線」の部分は「がい管」が使用されており、「がい管」の破壊、逸脱は認められないこと、また「パイプ配線」の貫通部分では、「メタルラス」およびトタン板が切り開かれほとんどパイプとは接触していないし、一部トタン板と接触している部分があるけれども、トタン板およびパイプには溶融こん跡は認められなかつたこと。

以上の認定事実を基礎として考えても、本件火災が原告ら主張のごとき屋内配線における瑕疵によつて発生したとは認めがたいし、ほかに被告において管理上の重大なる過失があつたため本件火災が起つたことを認めるに足りる主張ないし立証はみあたらない。

よつて、原告らの本訴請求は、その余の争点を判断するまでもなく失当であるから、棄却を免れず、民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。(安田実)

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